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つまり、患者さんが病気についてどれぐらい理解しているのか、知っているのかということもこちらが十分にわかった上で、疼痛の評価を行っていくことが重要です。
先ほど三つの円のかかわりをお見せしましたけれども、患者さんが心理・社会的な面でのサポートを得られないと、疼痛はまた違った形で表現されることがあります。患者さんのFamily Treeをつくることによって患者自身と家族についていろいろなことが理解できるようになりますので、これをカルテの中に入れて必要に応じてメモなどで追加の情報を加えていくこともいいと思います。
患者さんの痛みの原因を追求する
まず疼痛を評価するに当たっては、患者さんがその痛みについてどのように感じているかを知る必要があります。そしてその患者さんのいちばんの問題が何であるかということをそれによって探り出すわけです。
ある時、非常に強い痛みがあるといわれていた患者さんと会いました。そして彼に何がいちばん問題かと聞きました。彼は、「僕が気になるのは、ごみ箱の蓋を隣の人が開けたり閉めたりするのが非常にうるさくて、これがいちばん困る」といっていました。彼にとってはもちろん身体的な痛みもあったわけですけれども、いちばんイライラした原因は隣の人のそういった行動だったのです。ナースがきちんと身体的インフォメーションを理解するということも大事です。見て、触って、診察をきちんとすることです。それからまた、新しい疼痛の重要性についても理解する必要性があります。患者さんの状態が変わってきていることを示す場合もあるからです。また、便秘とか関節炎など何か違ったことが問題になってきつつあるサインであるかもしれないからです。
患者さんの痛みを評価する際に、「痛いですか」と聞くのでは十分ではありません。「痛いですか」と聞いたのでは答えはイエスかノーに限られてしまいます。一体どこが痛いのか、どれぐらい痛いのかを知る必要があります。場合によってはアナログスケールを使うこともいいと思います。あるいはこういうチャートを使ってもいいでしょう。患者さん自身に痛みについて説明をしてもらえるようにすることが大事だと思います。痛みを表現するのには焼けつくような痛みとか、刺すような痛みとか、いろいろな表現があると思います。それからその痛みがどのくらいの長さ続くのか、夜痛みがひどくなるのか、あるいは体位を換えるとき痛いのか、それから痛みがひどくなるのはどういうことがきっかけか、たとえば肝腫大の患者さんの疼痛の場合は、左側を下にして寝ているときにひどいようです。筋肉あるいは骨格系の痛みがある人では骨への転移がある場合があります。骨転移で痛い場合には体を動かすときに疼痛が生じます。また触ると痛いのです。そこが骨の癌と関節炎からくる痛みの違いでもあります。
そして、どうすれば痛みが和らぐのかを知っておくことも大切です。その痛みが自分の生活に非常に大きな問題となっているか、たとえばもうゴルフができなくなってしまったということになりますと、この気になる度合いも高くなると思います。
もう一度思い出していただきたいのですが、疼痛の管理を行うに当たって、WHOの緩和のためのラダーを使うことが不可欠であり、それから定期的に鎮痛剤を用いる、定期的に用量についても調節を行うこと、そして2,3時間おきにナースが評価を行って何か変化がないかを確認します。そしてもし可能であれば経口投与を優先すること、それから鎮痛補助薬、Co−Analgesicsを用いることなど、いろいろなものがありますが、これは必要があればまたのちほど説明をしたいと思います。
鎮痛補助薬の使用
鎮痛補助薬を用いることでは、特にモルヒネを使用しているときには補助薬の使用が重要です。たとえば緩下剤とか制吐剤です。それからその薬を用いた疼痛管理の方法をドクターとナースがきちんとモニターをしていくことです。まず患者と家族に対してどのような疼痛管理の投薬を行うかきちんと説明したかどうか、それから患者はどういう副作用を伴うかをきちんと理解しているかは、特にモルヒネを使用する際には大事なことです。たとえば口渇が生じることがありますし、また薬剤を使用しはじめのころは眠気が起こることがあります。気分が悪いこともあります。こういったことを事前に患者さんや家族に説明しておくことにより、モルヒネ使用に伴う問題のかなりの部分を軽減することができます。

 

 

 

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